【お悩み】

 Aは実父Bと実母Cの間に生まれた一人っ子です。Aが幼少のころに両親が離婚し、実の父Bが家を出ていきました。

 母親Cに育てられていましたが、数か月に一度は実の父Bと会うことが出来たので、両親は離れていますが、Aは両親二人の愛情のもと育ってきました。

 数年が経ちAが仕事中に連絡が来ました。それは実の父Bが数週間前に亡くなったとの知らせでした。

 

 その知らせはBが生前通っていた飲屋のママDからのものでした。内容は「Bの全財産をDに相続させる!」との遺言を書いてくれているので、財産関係を全て教えてほしい旨の内容でした。悲しみに暮れる暇もなくAさんは、当職へご相談に来られました。調査していく内にBの財産は預貯金や不動産などで、十分な価値がありましたが、何より驚いたのはその遺言書でした。

 適当なメモ帳に「私の全財産はDに相続させる。平成〇年〇月○日 B」と書いて実印を押印してありますが、酔って書いたのか、かなりの誤字や二重線のみの訂正で削除したずいぶんと荒いものでした。

 数日が経過した頃に、Dの代理人弁護士から「当該遺言は有効であり、Dが財産を取得するため、財産の開示して欲しい旨と財産の移転に協力して欲しい」という内容の通知があり、A側にも代理人弁護士を立て、結局調停になりました。

 

 結果的にはAは精神的な疲労や多額の弁護士費用にたえきれず、Bの財産の多くはDが取得することになってしまいました。Aとしてはずいぶんと残念な結果になってしまいました。

【総じて・・・】

 遺言書作成は、自分の最終的な希望や意志を残すためには、法的に非常に有効な手段の一つであることは間違いありません。しかし今回のようなケースもありますので(非常に稀なものですが)遺言書は、決して安易に作成せず、遺言の内容や自身の希望、家庭環境や相続人の状況、そのあとに起こる事などを十分に理解・想像・検討し、そのうえで作成される渾身の遺言が望ましいと思います。

遺言書作成をご検討の方は、法律や実務に精通した専門家を交えて作成することもご検討下さい。遺言書の作成のお手伝いもさせていただいておりますので、お気軽にご相談ください。